TSR-2 Walk Around(5)

TSR-2(その5)


 1965年4月政府はTSR-2の開発中止を決定します。代替機としてF-111Kを採用することには内閣内の反発も強く。結局、TSR-2のキャンセル・F-111Kの10機導入・F-111の70~100機オプションを閣議決定し、F-111の本格導入は先送りとしました。
 イギリス向けF-111Kは66年に発注されましたが、イギリスがF-111を買うことで支出される外貨を国内へ戻すために、アメリカがどれだけイギリス製の部品(主にエンジン)を買うかという点の協議が続けられます。


垂直尾翼

オールフライングテールです。垂直尾翼まで全遊動式は珍しい。
仮に実用化されてれば、この辺りはかなり形が変わったんじゃないかと思います。





後部胴体

アニメではここにロケットブースターが付いてましたが
垂直尾翼とドラグシュートはどう納めたのかな?





テールパイプ

 テールパイプの間の溝はドラグシュートのハーネス格納部。
シュート本体はテールパイプ上部の三角地帯に格納される。



ドラグシュート取り付け部

ドラグシュート端部はここに取付けられ、
ハーネスがテールパイプの間を通って上部に格納される。






垂直尾翼基部

テールパイプの間の部分がドラグシュート格納部
3箇所のヒンジで上に開く






ドラグシュート格納部扉ヒンジ










 TSR-2の代替機については、一時ミラージュⅣにスペイエンジンを搭載した機体が検討されたりしたようですが、結局68年にイギリスがスエズ以東からの撤退を決めたことにより、長距離侵攻爆撃の必要がなくなり、F-111Kも68年にはキャンセルされています。













 TSR-2のキャンセルで仕事のなくなるBACには、アメリカが押さえていたサウジアラビア市場へのライトニングの輸出という形で補填がなされ、キャンセルされたP1154はエンジン部分が生き残り、アメリカとの協力でハリアーが生まれます。
 イギリスが導入するF-4にはロールスロイスのスペイエンジンが搭載され、アメリカのA-7攻撃機にもスペイがアリソンTF41として、P&W TF30(F-111のエンジン)に替えて採用されました。民生の分野でもトライスターに採用されたRB211を始めとしてアメリカ製旅客機にロールスロイス製エンジンが採用されています。

 TSR-2のキャンセルについては労働党の陰謀のような捉え方が多いのですが、陰謀というならこれはアメリカの陰謀であり、アメリカ航空産業に唯一立ち向かえる可能性のあるイギリス航空産業から、自主開発能力を奪いパートナー化するためのものであったと言うのが正しいでしょう。完成品から治具に至るまで徹底的に破壊したのも、アメリカに対する全面降伏の意思表示だったのではないでしょうか。
 この後イギリスは正面装備の自主開発は諦め、ジャギュア、トーネード、タイフーンと共同開発の方向へ進みます。F-16、F-111、F-15を採用しなかったのもある種イギリスの意地を感じます。F-35は果たしてどうなるでしょうか?

 TSR-2について言えば、仮に自主開発にこだわったとしても、財政問題で配備はかなわなかったでしょうし、当時のイギリスの退潮を考えれば、アメリカとの関係を損なってまで実現させる意義はなかったのでしょう。いずれにせよこの機体はイギリスにとっていろいろな意味で高すぎたのです。

 



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